配当ライフ~サラリーマンが配当金FIREを目指して~

配当金FIREを目指して高配当・増配株に全力投資するアラサーサラリーマンの資産形成と配当金をつづるブログです

Phantom(著:羽田圭介氏)書評。膨らみ続ける分身のゆくえ

FIREを目指す30代女性が主人公の小説Phantom。

FIREを目指す人の思考をここまでこと細かく描き出せるのか?と感嘆するほどの濃密な小説をネタバレ控えめにレビューしていきます。

 

 

 

 

概要

外資系食料品メーカーの事務職として働く元地下アイドルの華美は、生活費を切り詰め株に投資することで、給与収入と同じ配当を生む分身の構築を目論んでいる。恋人の直幸は「使わないお金は死んでいる」と華美を笑い、とある人物率いるオンラインコミュニティ活動にのめる込んでゆく。そのアップデートされた物々交換の世界は、マネーゲームに明け暮れる現代の金融システムを乗り越えゆくのだ、と。やがて会員たちと集団生活を始めた直幸を取り戻すべく、華美は“分身”の力を使おうとするのだが…。

楽天ブックス商品紹介より引用)

 

 年収250万円、30代前半、過去の美貌が薄らいできた元アイドル、というなんだか個性があるような、実際にいそうな、そんな何とも言えないけれども気になる主人公の華美。一方、恋人の直幸も同世代の同じ工場で働くイケメンだけど加齢で冴えなくなってきたという状況で、最近はやりのオンラインサロンにドはまりしていきます。

 資産5000万円を目指し、自分の分身(配当金等)に生活を支えてもらうために質素倹約を突き詰めている華美と、何事も自分への投資だ・体験が大事だ・エンはそのうち価値を失うと胡散臭い直幸、この二人を中心に話が進んでいきます。

 ブログ主はFIREを目指しているのですが、華美の思考が自分の思考と似ていて引き込まれるとともに、30代前半の男女が醸し出す何とも生々しい描写に引き込まれていきました。

 

一押しポイント

なぜ、FIRE志向者の思考をここまで細かく記載できるのか?

 ところどころ華美は、複利運用を頭で計算する描写があります。例えば、

・寝付けない華美はとある数字を思い浮かべ、それに年5%で複利運用をしていく計算をしていきます。それを延々と行っているうちに、意識がまどろんでいく。

・月に2万円をたばこ代に費やすという愛煙家と話しているときに、それらを10年間続けた場合の出費と、その金額を資産運用に回した場合の資産額を頭に思い浮かべる。

 

 はい。どれも私もやっていることです。特に寝れないときの資産額の複利計算は便利なもので気づいたら寝ています。出費についても、それを資産運用に回せたらいくらの金額になるかということも何気なくやってしまいます。

 多分FIREを意識している人はみんなやっていることだと思いますが、それを小説でみることになるとは、、、著者の羽田さんもFIREを目指しているのではと感じてしまうほどリアリティを感じる描写でした。

 

配当金生活者の生活レベル。将来と今

 華美は、とある投資セミナーに出席し、そこで老男性3人と話をします。

 そこの男性3人はいずれも配当生活をするために生活を切り詰め、ペットボトルに水道水、手製おにぎり持参、低価格アパレルの服、徹底的な自炊、やむを得ず外食する場合は優待券を使える店に限る、本は買わず図書館を利用といったことを話しており、華美は思わず「貧乏くさい」と感じます。

 しかし、その男性らの金融資産が1億円を超えていると聞き驚くとともに、最近テレビで目にした生活保護受給者の生活と重ね合わせてしまいます。

 そして、FIRE志向者にぐさっとささる回想があります。

ブランド品も買わず友達付き合いも制限し、分身のような配当システムを作った先に待っているのは、生活保護費受給者たちと同等レベルの配当生活だというのか。

(引用元:NARUTO -ナルトのコラ画像

さらに、華美は、「今後先進国の中高年たちが株を切り売りするようになり、世界で株の買い手がいなくなったらどうなるのだろうか。」という疑問を口にした際に、その老男性らは、「インドとかブラジルの人たちが買い支えてくれるでしょう」と言います。それに対して、華美は、

そもそもの前提として、自分が買った株は将来的に誰かが高値で買ってくれるだろうという、曖昧な期待の上にしか成り立っていない。本当に数十年後、インドやブラジルの人たちが買ってくれるかは、わからない。

さらに、

たとえ今大金を手にしたとしても、華美は自分が豪遊などせず優良配当銘柄の株を買っている姿しか思い描けなかった。資産を複利で増やした10年後には、そのさらに10年後の複利効果を考えている気がする。

と回想しています。

これは株式投資をしている人、株でFIREを目指している人からすると結構しんどい指摘だと感じました。

結局は株価が将来上がり続けるというのは曖昧な期待でしかないわけですし、いつになったら増やした資産に満足できるのか、分かりません。資産運用に終わりがあるのでしょうか。

 

その一方で、直幸は金よりも体験だといい、金を払ってムラ(オンラインサロン)の活動に全力投球し楽しそうです。

金を浪費しているとして少し下に見ていた直幸は楽しそうで、将来のことだけ考えて資産を増やして今を見ていない自分は滑稽なのではないかという華美の不安と恐れ、自分の方針に揺らぎが出るさまの描写は圧巻ですね。私も不安になってきました。

 

分身を育てるか使うか。

 物語の関することですのでぼかしますが、小説の後半で華美は大事に育てた資産の一部を使うかどうか悩むタイミングがあります。

 そこでの悩みは、

・必要な金額を使わなければその分を投資に回して、より早く理想金額まで達成し、若さが残っているうちに楽しさを享受することができる。仮に使わないとしても発生する不幸な事実は10年経過したら忘れているかもしれない。

・払おうと思ったら払えるお金。本当に大事な局面でそれすらケチってしまったら人間的に死ぬ(精神的な意味も含めて)のと同じではないか。

 という葛藤です。

 FIREを目指している私は身につまされる思いで読んでいました。そして、HUNTER×HUNTERのこのシーンを思い出しました。

(引用:HUNTER×HUNTER

 

 FIREのために大事に育てている私の資産。いずれそれを使うか残すかどちらか選ばなければならないときが来るのかもしれません。

 

 

 以上、Phantom(著:羽田圭介氏)の書評でした。

 FIREを目指している人、株式投資をしている人ならばぜひ読んでほしい一冊です。